五十肩とは
概要
中高年になると、特に原因がないのに肩に不快感や痛みを覚えることがあります。肩が痛くて腕が上がらなくなったり、手が後ろに回らなくなったりしたら、五十肩が疑われます。ある日、突然、肩関節に激しい痛み、あるいはしびれが起きることによって発症します。
五十肩になると、物を持ち上げようとした時やゴルフのスイングをした瞬間などに、突然激痛に襲われ、それ以降、肩を動かすたびにひどい痛みに悩まされる場合が多く見受けられるようです。五十肩と呼ばれるのは、40歳以上の人に起こりやすく、特に50代の人に多く見られるからです。
利き腕にも関係なく、左右どちらの肩にも起こります。片方が治った後に、もう片方が痛くなることもありますが、両方の肩が同時に痛くなることはまずありません。五十肩の起こり始めには、夜、寝返りをうつ時にギクッと痛んで目覚めることもあります。痛みの強い時は、炎症が起きている時期で、その後、炎症が治まるにつれて痛みは軽くなります。
腱とその周囲が炎症のなごりで癒着を起こし、滑りが悪くなるので、関節の動きが悪くなります。徐々に癒着が軽くなり、動きが正常な状態に戻るまでには、半年から1年もの時間がかかるのが普通とされています。
肩関節周囲炎
五十肩は正式名称を「肩関節周囲炎」と呼びます。または「凍結肩」とも呼びます。英語ではFrozen shoulder ないしAdhesive capsulitisと呼ばれることが一般的です。
肩関節は上腕骨、肩甲骨、鎖骨の3つの骨で支えられ、関節を大きく動かせるような構造になっています。しかし、骨だけでは構造的に不安定であり、安定性を筋肉や靱帯組織に大きく依存しています。そのため靱帯組織の加齢による変化と肩の酷使によって、靱帯組織が傷つきやすくなり、痛みや動きの制限が起こると考えられています。
関節の動きを滑らかにするために、関節周囲の筋肉や腱などの間には、滑液包と呼ばれる潤滑油のような役割をする液体が存在します。老化によって、この滑液包や筋肉、腱などに炎症が起こって痛みが生じると考えられていますが、はっきりした原因はよくわかっていません。
症状
四十肩、五十肩は、その名の通り40代で症状が出れば四十肩、50代で症状が出れば五十肩と呼んでおり、それぞれに違いはありません。
五十肩の特徴は、肩や腕が痛んで腕が上がらない、衣服の脱ぎ着ができないなどの症状があげられます。40~50代の人が起こりやすいのは、加齢によって肩周辺の組織がもろくなり始めること、一方で仕事やスポーツなどまだまだ活発に体を動かす人が多いこと、肩関節は動く範囲が大きいために骨以外の組織が引っ張られやすいことなどがあります。これらの要因が重なることで、五十肩が起こりやすいと考えられています。
特徴として肩をあげたり水平に保つのが難しくなります。そのため、洗濯物が干しづらくなった、肩よりも上のものが取りづらくなった、背中のファスナーがあげられないなどの症状が現れます。
よく肩こりと混同されてしまいがちですが、肩こりは筋肉の緊張などから起こるもので、四十肩、五十肩とは明らかに違うものです。肩を動かした時に痛みが出たり、腕を後方に回せない、なかなか肩があげられないなどの症状がある場合、ひどくなる前に何かしらの対処をしましょう。
五十肩の症状で特につらいのが、寝ているときに痛みが増す「夜間痛」です。特に、仰向けで横になり、肩が後方に落ちる姿勢になると、痛みが増します。ズキズキと疼くような痛みを伴うこともあり、睡眠が妨げられて、日常生活に支障をきたすようになります。
糖尿病の人は要注意
五十肩の病変が特に起こりやすい部位は4か所あります。1つは肩の前側にある肩甲下筋の腱と上側にある棘上筋との隙間である腱板疎部、そしてもう1つは腱板疎部とつながっている上腕二頭筋長頭腱の腱鞘です。この2か所に炎症や拘縮が起こると、背中に手を回したり、髪を洗ったりする動作がしづらくなります。また、上腕骨のボールと肩甲骨の受け皿を包んでいる関節包の下側や、腱板の上側にある滑液包に炎症や拘縮が起こると、腕を上げにくくなります。
特に、糖尿病がある人は、そうでない人と比べて五十肩になりやすく、治りにくいことがわかっています。糖尿病により血糖が高い状態が続くと、関節包などを構成しているコラーゲンが硬くなりやすいためと考えられています。糖尿病のある人は五十肩の発症や悪化を防ぐためにも、食事や運動、薬などで血糖を適切にコントロールすることが重要です。
症状
五十肩の症状
特に大きなきっかけがなく肩に痛みが発生し、その後数週間から数か月かけて徐々に、あるいは急速に痛みが増します。はじめは「なんとなく肩に違和感がある」程度であったものが、「少し動かすだけでとてつもなく痛い」や、「夜寝ていて痛みで起きてしまう」などの強い症状を呈するようになることが多いです。
人によっては痛みのために1,2時間以上眠れないという状態が数か月から1年以上続くこともまれではありません。病気が進行すると関節包に線維化(固くなること)が生じ、肩の動かせる範囲が著しく狭くなります。このために、つり革を持てない、エプロンの紐を後ろで結べない、洗顔ができない、寝返りが打てない、など多彩な症状を呈し、著しく生活の質が低下します。
- 肩に痛みを伴い、制限が出ます。
- 運動時痛以外に、安静時痛・夜間痛があります。
- 肩関節だけでなく、首や腕にかけて痛みが生じることもあります。
他にもこのような症状が…
シャツを着たり脱いだりする動作が辛くなったり、頭の後ろで髪を結ぶ動作、腰の後ろで帯を結ぶ動作が難しくなります。初期の症状として、肩をある一定の方向に動かすと痛みを感じます。 最も多いのは、エプロンの紐を腰の後ろで結ぶ際や、髪の手入れをする 時の痛みですが、普段している仕事やスポーツの際の一定の動作によって 痛む場合もあります。
病気が進行すると、痛みをおこす方向が増えてきて (たとえば、最初は手を後に回すときだけ痛かったのが、上に挙げる動き でも痛くなり)、日常動作が不自由になり、夜間に痛みきたす場合もあります。それとともに、動く範囲(可動域)も制限され、重症の人では、手を90度以上挙げれなくなることもあります。
どんな時に痛みがでるの?
四十肩、五十肩は、肩甲骨と上腕骨をつなぐ肩関節に痛みがでます。そのため、腕を持ちあげるような動きが難しく、中でも腕を外側に回すような動作などは、特に痛みを感じます。
- 髪を後ろに束ねるとき
- 電車でつり革をつかむとき
- 洋服を着替えるとき
-
背中のファスナーやボタンに手が届かない
-
ネクタイをうまく締められない
- 洗濯物を干すとき
- エプロンの紐を結ぶとき
- シャンプーをするとき
-
頭髪をブラッシングできない
-
かゆい背中がうまくかけない
- 歯を磨くとき…などなど
肩や腕が上がらず後方に腕を回す動作が制限されるため、日常生活の中で下記のような差し障りが生じます。ただ「痛みがある」というだけでなく、いつもの簡単な動作が困難になり、日常生活に不便を感じます。
自覚症状のプロセス
- 初期の痛み:肩の違和感がとれない。少し痛む。肩こり。その他
- 進行期の痛み:夜ズキズキ歯痛のように痛み、眠れない。夜間痛と呼ばれるもの。
- 拘縮期:痛みとともに、肩が動かなくなってきます。(エプロンがつけられない、下着がとめられない、など)
- 拘縮期末期:痛みはかなり治ってきたけれど、硬くて動かない。
- 回復期
原因
老化
実は「老化」という以外、まだあまり詳しくわかっていません。人類の進化の面からみると、2本足で立ち両手を自由に使用するために、肩の関節に大きな動きを与えて、筋・腱・靭帯などで支えるようにしたと考えられています。肩には体重の1/8にあたる重い腕がぶら下がり、加えて重い荷物を持ちあげたりして、加齢とともに疲労が蓄積される構造となっています。
五十肩では肩の関節に炎症が起きていることが確認されています。しかしなぜ炎症が起きてしまうかは解明されていません。骨折や脱臼など明らかな怪我がきっかけで炎症が起きるというのではありません。むしろ軽微な損傷(つまり転んで手をついた、とか大掃除の際に棚の上のものを運んだなどの小さな負担)がきっかけとなり、しばらくしてから五十肩となることが多いです。
肩は体の中で最も大きく動く関節で、前後左右に360度大きく動きます。このため、肩では、骨どうしの接触は少なく、多くの筋肉や腱(筋肉の先の、細いすじ状の部分)が支えています。この筋肉や腱に、長年の使用で、“緩み”や“痛み“がおこり、長時間の運動や、普段し慣れないちょっとした動きで筋肉や腱どうしが擦れたり、骨や関節と擦れ合ったりして、腫れ(炎症)をおこし、痛みをきたすのです。一部でこれがおこると、痛みを避けようとして、肩の動きが不自然となり、他の筋肉や腱に無理がかかって他の部位に炎症が広がり、痛みで動かせない状態となります。炎症はいずれ治まりますが、動かさない筋肉や腱は弾力性を失い、固まって、最後には、他人が動かしても動かない状態となってしまいます。
肩を動かすと痛い、腕が上がらない、シャツの袖に腕を通すのがつらいなどの症状があったら、五十肩の可能性が考えられます。最初のうちは肩を動かすと痛む程度ですが、次第に安静にしていても痛むようになり、肩の可動域が狭くなっていきます。五十肩の場合、片方の肩だけに痛みがあるのが特徴です。片方の肩が発症したあとに、もう片方が痛くなるケースはありますが、両方の肩が同時に痛くなることはあまりありません。
四十肩、五十肩と肩こりの違い
肩こりとは、悪い姿勢や緊張などによって肩や首の筋肉が疲労し、肩に痛みや張り、だるさが発生している状態です。簡単に説明すると肩こりは「筋肉疲労」、四十肩や五十肩は「炎症」の状態です。
一般的な肩こりは筋肉の緊張からくる、血液循環の悪化が原因。習慣化した姿勢の悪さや、運動不足、ストレスにより筋肉疲労がおこり、張りや痛みを引き起こします。
一方、四十肩、五十肩は老化などにより、肩関節をとりまく関節包や腱板に炎症が起こる事で痛みが生じると言われています。その為年齢の若い方より、中年以降に発症する事が多いのです。
肩こりと四十肩、五十肩では対処の仕方が異なる場合があります。誤った判断で痛みを悪化させることのないよう、正しい診断の元、適切な対処をすることがとても大切です。
他の病気の可能性は?
五十肩(正式名称:肩関節周囲炎)は多くの人がかかる病気ですが、肩が痛ければすべてこの「肩関節周囲炎」であるわけではありません。
同じように肩が痛くなる病気としては、腱板断裂というものや、石灰沈着性腱炎、肩峰下滑液包炎、上腕二頭筋腱長頭炎などが挙げられます。これらの病気も広い意味で「五十肩」とよばれたりしますが、病気としては異なります。レントゲンやMRI、エコーの検査でどちらか判断ができます。
これらの病気と五十肩との違いは、五十肩は「肩が極端に動きにくくなっている」という点です。五十肩の場合は、痛いほうの手が身体の後ろに回らずに、ズボンの後ろポケットに手を入れることも痛くてできなくなります。また腕が上がらずに、髪の毛を洗うことも困難になることもしばしばです。このような場合は五十肩(肩関節周囲炎)です。
それに対して五十肩以外の他の病気では、痛みはあるけれどそこまで固くなっていない、という特徴があります。手を上げる動作の途中で痛みが走るけど、手はちゃんと上がる、といったようになります。参考にしてみてください。
四十肩、五十肩の原因
加齢により血液循環が悪化⇒肩の周辺組織が炎症をおこす⇒炎症により腫れや痛みが生じる⇒肩の可動域が狭まってしまい、こわばった感じがしたり肩に激痛が走るようになる。
- 関節滑膜や筋肉
- 腱などの性質の変化
- 血液循環の悪化
※原因は完全には明らかにされていません。
治療法
五十肩はどれくらい症状が続く?
五十肩は、ある程度の期間は痛みが続きますが、最終的には(治療をしてもしなくても)痛みがなくなるという特徴があります。ですが、痛みの期間や強さには個人差があり、一言で「五十肩」と言っても軽症から重症まで幅があることが知られています。
重症であるほど痛が長く続きます。軽い場合は数週間から数か月で痛みは治りますが、重症の場合は(適切な治療を受けなければ)最低でも1年半は痛みが続きます。海外の研究では、重症の五十肩の場合、(湿布や痛み止め、リハビリなどの治療をしていても)3年経過しても4割近くの患者さんに痛みが残っていることが報告されています。腕が上がらない、肩が動かせないといった動きの制限の度合いが強い人ほど重症ということが言えます。
病院で通常受けられる一般的な治療では対症療法が主になることが多く、湿布や痛み止めを処方されてただ時間が経過するのを待つという診療を受けることが多いです。また関節の袋の中にステロイドの注射をすることも一般的です。ご自分が重症なのかもと思った方や、いつまでも治らない、という方はぜひ専門医の診察をお受けください。平均して1〜2年で治りますが、なかには何年も痛みの残る人や、痛みが改善しても可動域の制限が残ったままの人もいます。できるだけ早めに受診して、適切な治療を受けることが大切です。
五十肩の診断は?
五十肩であると診断するためには、次のような状態を把握することが重要です。
- 前からバンザイをして腕を挙げていったときに、顔の高さくらいまでしか上がらない
- ズボンの後ろポケットに手を入れるのが痛くてつらい、あるいはできない。
- 夜寝ていて肩に痛みがある
この3つがすべて当てはまれば五十肩(肩関節周囲炎)である可能性が極めて高いです。病院ではレントゲン検査をします。五十肩ではレントゲンは異常がありません。反対に石灰沈着性腱炎などほかの病気ではレントゲンで異常が見つかります。さらに病院ではMRIの検査をすることもあります。腱板断裂などの病気はMRIにて確認することができます。そのような病変がない場合は五十肩を疑います。
四十肩・五十肩の治療法
はっきりとした原因がわかっていない四十肩、五十肩ですが、悪化させないためにも状態に合ったケアが必要です。四十肩、五十肩の主な治療法をいくつかご紹介いたします。
運動療法
四十肩、五十肩の治療法としては、「運動療法」をメインにしたリハビリを行います。ストレッチや振り子運動は肩関節の緊張をほぐし、痛みの緩和と、関節の可動域を広げる事を目的とします。四十肩、五十肩はどちらか一方に発症する事が多いので、痛みのない側の予防策としても日々取り入れていく事が望ましいです。
温熱療法
患部の血行を良くすることで、治癒を促し痛みの緩和が期待できます。一般に医療機関で行う温熱療法は、ホットパックや、マイクロ波といった機器を使った治療がありますが、自宅では入浴や蒸しタオル温湿布などを使い温める方法があります。ただ、温湿布は人によって皮膚かぶれを起こすことがある為、長時間同じ場所に貼る事は避け、入浴後は30分以上空けてから貼り直すことで、かぶれを防ぐことができます。また、温湿布の薬効が残った状態で入浴するとヒリヒリすることもあるので、入浴の1時間前には剥がすようにしましょう。外出の際には肩を冷やさぬよう、ストールなどで保温することも忘れずに。
寒冷療法
四十肩、五十肩で痛みが激しく、熱を持っているような場合には、炎症を抑える「寒冷療法」を行います。これはアイスパックなどを使うのですが、準備に時間がかかったり、凍傷を起こす可能性もある為、自宅での対処法としてはあまり一般的ではありません。そのような場合は、冷湿布を使いましょう。ただ、長い時間冷やし続けてしまうと筋肉が硬くなるので、痛みが軽くなったら温湿布に切り替え血行を良くします。
通常、片側だけに発生
「五十肩」は通常、片側だけに発生します。回復後に同じ関節に再発することがないため、肩の痛みを繰り返す場合は、ほかの病気と見分ける必要があります。腱板断裂、石灰性腱炎、変形性肩関節症、頸椎疾患、腫瘍性疾患、内蔵からの関連痛などに注意する必要があります。レントゲン検査、MR検査などが必要となる場合がありますので、痛みが強く心配な場合は、必ずお近くの整形外科を受診してください。
動かしたほうがいい?
肩が痛むからといって動かさないでいると、痛みが悪化したり関節の可動域が狭くなったりするので、無理のない範囲でなるべく肩を動かすようにしましょう。ただし、痛みが強いときは医師の診断を仰いでください。必要に応じて、内服薬や肩関節内注射で痛みを抑えることができます。また、睡眠時に肩が痛むときは、肩の下にたたんだタオルなどを敷くと痛みが緩和されるでしょう。
痛みの強い時期に無理をして動かそうとしてしまう人がいますが、痛みの強い時期(寝ていて痛い、じっとしても痛いなどの症状があり痛みが増している時期。炎症期とも言います)は無理をして動かさないほうが良いです。炎症期に無理に動かすと炎症が余計に増して痛みが治りにくくなります。治療や自然経過で炎症期が過ぎれば痛みは徐々に落ち着いてきます。そのタイミングで動かしていくのが最も早く治るコツです。専門医に適切なアドバイスをもらうことが重要です。
マッサージは?温める?冷やす?
肩の痛みが増している時期(炎症期)にマッサージを受けるのは注意が必要です。特にグイグイ、ボキボキなどと肩や腕を動かすようなことをすること、あるいはされることは避けてください。五十肩で特に痛みが強い時期は炎症が起きており、外部から動かすことで刺激となりさらに炎症が悪化します。おそらく痛みが強くなってしまうはずなので、そのような診療(おそらく接骨院など医師でない人の判断かもしれません)を受けずに、専門医の診察を受けることをお勧めします。また極端に温めすぎても痛みが増す可能性があり、極端に冷やしてもやはり痛みを増すことがあります。温めたり冷やしたりすることで治療効果が期待できる病気ではないです。
腕が上がらない
五十肩で腕が上がらなくなる理由は2つあります。一つは痛いために挙げられない。もう一つは関節の袋(ふつうは柔らかくて伸びがある)が固くなってしまう(繊維化する)ために挙げられなくなるためです。これらの状態はきちんとケアをすればどちらも最終的には改善します。つまり適切に処置すれば「上がらないまま」にはなりません。痛みが強い時期に重要なことは、まず何よりも早く痛みを治すこと、そして痛みが和らいだなら、負担のない範囲で自分で肩を動かせるようにエクササイズする(セルフエクササイズ)が重要です。
再発は?
五十肩は一度治ると、同じ肩に再発することは稀です。ただし反対の肩も五十肩にかかることがあります。特に先になった肩をかばうために反対の肩を酷使した結果、反対の肩に負担がかかりそちらも五十肩になるというケースは存在します。また、糖尿病のある方は五十肩になりやすく、また一度五十肩になると治りにくいことが知られています。糖尿病の方は専門の治療を受けることをお勧めします。
良くならない
五十肩には軽症のものと重症のものがあり、軽症であれば治療をしなくても一定の期間(数か月)で治りますが、重症となると簡単には治りません。重症の場合、湿布などの治療もほとんど効果が期待できません。
最近の研究で、五十肩の患者さんの関節包には余計に増えた「異常な血管」ができていることがわかってきました。しかもその血管の周りには神経線維も一緒になって増えていることが報告されています。この血管と一緒に増えている神経から痛みが生じているものとする説が最も支持されています。通常の治療で改善が十分ではない場合は、このような異常な血管を標的としたカテーテル治療などの新しい治療法もあります。
症状のプロセス
痛みの状態について
四十肩、五十肩は症状の推移から三期に分けられます。痛みの強い「急性期」と、痛みは落ち着いているが思うように肩が動かせない「慢性期」、痛みが改善する「回復期」に分けられ、ほとんどの場合、経過と共に痛みは改善していきます。
「五十肩」は発症から約2週間の急性期、その後約6ヶ月間の慢性期を経て、回復期に至ります。急性期には運動時痛に加えて安静時痛や夜間痛が起こり、徐々に関節が固くなり、肩の動きが制限されるようになります。慢性期には徐々に痛みが軽くなり、日常生活でも不快さは減りますが、動きの制限は残ります。回復期には痛みも減り、少しずつ動かしやすくなり、ゆっくりと回復していきます。自然に回復することがほとんどですが、元通りになるまでには約1年の経過が必要といわれています。関節の動きが極端に悪くなった人では、回復に数年かかることもあります。
五十肩は経過に伴い、症状が変わっていきます。症状の軽減や早期回復、悪化の予防のためには、経過に合わせて肩の安静と運動療法を適切に使い分けることが大切です。
急性期(発症から2週間程度)
急性期は、痛みが強いものの、無理をすれば肩を動かすことができます。痛みは、肩を動かしたときだけでなく、安静時や就寝時にも現れます。痛みを伴う動作は無理に行わないようにしましょう。
慢性期(6か月程度)
慢性期は、痛みは軽減しますが、肩が動かしにくくなります。無理に動かそうとすると痛みが出ます。痛みが軽減してきたら、硬くなった肩関節をほぐすために肩の運動を行い、少しずつ肩の可動域を広げていきます。
回復期(1年程度)
回復期は、徐々に痛みが解消していき、次第に肩を動かしやすくなります。しかし、数年かかる場合や、症状が残ることもあります。この時期には、肩の可動域や低下した肩の筋力を取り戻すため、積極的に肩の運動を行います。
〈急性期〉
①鈍痛
肩のあたりが重苦しい感じ
肩の関節がピリッと痛む
↓
②感覚異常
肩周りの感覚が鈍くなってくる
腕に違和感を感じる
首や肩のあたりに張りを感じる
↓
③疼痛
ズキズキと、うずくような痛みがある
肩を動かす際に痛みを感じる
朝晩に痛みが強くなってくる
↓
④夜間時痛・安静時痛
動いても痛いし、何もしなくても痛い
夜寝る時に痛みがあり寝つけない、痛みで目が覚める。
夜眠れないほど痛みます。
炎症が起きている為、無理に動かさないほうがいいです。
治療…薬物療法、温熱療法、また安静肢位を心がける必要があります。
〈回復期〉
- 徐々に痛みが改善し、動かせる範囲も広くなる。
- 動かしても痛みが出なくなる。
痛みはほぼ消失。
生活に支障がなくなっても、実際は関節の硬さが残っています。
治療…ストレッチなどで十分な柔軟性を回復する必要があります。
〈慢性期〉
- 夜間時痛、安静時痛は軽くなる。
- 過度に動かしたときに、強いつっぱり感がある。
- 急性期の痛みにより、動かさない状態が続くことで関節が硬くなり、動かせる範囲が狭くなる運動時痛、夜間痛、安静時痛が徐々に軽減してきます。
治療…腕の動きを改善させる運動を徐々に行っていきます。
※痛みがでない範囲で行う必要があります。
※体操の前に、お風呂に入ったり、蒸しタオルなどで肩を温めておくと効果的です。
予防法
準備運動
この病気の予防には、仕事やスポーツの前に、肩のストレッチ(肩を一定の方向に回して、少し痛みを感じる時点で10~15秒止める)や、ウォーミングアップ(暖める運動)をした後、徐々に強く動かしていくことが有効です。ただ、痛みがない状態で、このような事を毎日やる人はまれと思われますが、何となく肩が重いとか、ある方向に動かすと少し痛いとか感じた時点で、このような準備運動をすることが予防になるといえます。また、五十肩の発症は決して50歳頃と決まっているわけではありません。40歳でも、70歳でもおこります。普段と違う仕事や、スポーツをする際には、できるだけ準備運動を行ってください。
夜間痛の緩和と寝方のコツ
四十肩、五十肩になると、就寝時にも痛みが出る「夜間痛」が出やすくなります。その為、寝不足になりがちで精神的も肉体的にもかなり辛い状況に…。
特に動かしているわけでもないのに、なぜ寝ている時に肩の痛みが出るのでしょうか。私たちの体は楕円形の様な形をしており、腕は肩関節、肩甲骨とつながっています。この肩甲骨は体の曲線にそって、少し角度が付いています。その為、平らな床にあおむけで寝ると、重力によって肩の位置が押し下げられ関節に負担がかかるのです。
肩を痛めていない人であれば、全く問題ない差異ですが五十肩、四十肩に人にとっては収縮した筋が引き伸ばされたり、ゆがんだ力が加わる事で大きな痛みの原因になります。就寝時の対策としては、肩が押し下げられないように、寝具の角度を調整してみましょう。
(1)高さを調整
バスタオルや枕を使い、肩の高さを補います。肩の後ろから肘にかけて足し、支えを作り安定させましょう。
(2)痛い方を上に、横向きに寝る
肩の関節は体の内側に向いている方が楽になるので、横向きに寝るのも対処法の1つです。横向きになるときは、肩が押し下げられないよう高さを保つための抱き枕や、丸めた毛布などを使用すると良いでしょう。
(3)枕は高すぎず、低すぎず
枕が高すぎると、首や肩周りの筋肉を引き伸ばし痛みが出ますし、逆に低すぎると、首や肩周りの緊張を高めるため肩に負担がかかります。そういった場合には、枕から上半身、下半身にかけて傾斜をつけると、首から肩への負担も緩和されます。
ちょっとした工夫で就寝時の肩関節にかかる負担を減らすことができ、「夜間痛」の緩和と質の良い睡眠がとれるようになります。自分にあった寝具の調整を心がけてみましょう。
まとめ
こんな人は病院へ
- 肩の痛みが1週間以上続いている
- 腕が肩より上に上がらなくなった
- 手や腕にしびれがある
他の病気かもしれません
腱板損傷
何らかの原因で腱板が破損した状態。原因としては転倒や打撲、スポーツ外傷などにより発生する場合と、加齢的変化(老化現象)に肩の使い過ぎが加わり、発生する場合とがあります。
肩峰下滑液包炎
肩峰下滑液包が炎症を起こす病気。五十肩の前段階とも考えられますが、原則として腕がひと通りに動くので、運動制限がある五十肩とは区別されます。
頚椎神経根症
くびに原因がある病状で肩の周りの痛みをきたし、よく間違われます。首や背中(肩甲骨部)の痛みや、肩こり、手のしびれがある場合が多いようです。
腱板断裂
運動中や運動後に強い痛みと伴に、肩が挙がらなくなります。
石灰沈着性関節周囲炎
軽い運動後に、急に肩の腫れと激痛をきたします。
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