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頸腕症候群

頸腕症候群(頸肩腕症候群)とは?

頸肩腕症候群は、腕や肩、首、背中などの痛みや感覚異常などの総称です。長時間にわたり、同じ作業を続けていると、首や肩、背中、手首などが痛むことはありませんか。 それらの部位が過労で痛むことを、広く頚肩腕症候群と呼んでいます。 そのまま放置していると、仕事だけでなく、日常生活を送れない可能性があります。「変形性頸椎症」、「頸椎椎間板ヘルニア」をはじめとする、脛骨腕痛症状をともなう脊柱や肩関節に由来する病気も含まれます。

 

腕が痛い、腕がだるい、重いといった症状を、急に体を動かした後やスポーツの後に感じることは誰にでもおこります。しかし、特に何かをしたわけでもないのに首から肩、肩甲骨周辺、腕、手などに痛みがある・しびれる・重いといった症状があるときは、頸肩腕症候群が疑われます。神経や筋の疲労、圧迫、筋力低下、循環障害などの自覚症状があらわれ、原因が特定できない病気です。

 

手をよく使う作業を続けていると、手や腕、肩、首などがちょっとだるかったり疲れを感じたりしてきます。これは、筋肉の疲労による症状と考えられており、だれでも一度は経験することでしょう。それでも作業をやめずに続けていると、だんだんと「こり」や痛みがでてきます。重いものを運ぶなど物理的に大きな力を発揮する作業の場合には、短い時間でこれらの筋疲労症状がでてきますが、小さな力ですむ作業の場合にはすぐに症状はでてきません。小さな力ですむ作業でも、同じ動きをくり返したり、同じ姿勢を続けたりしていると、だんだんと疲労がたまってきます。

 

その疲労のつみ重ねによって、筋肉がこったり、だるくなったりしてきます。比較的短い時間ででた症状とはちがい、慢性的なこりやだるさは、なかなか取れず、針灸や整体、マッサージなどで一時的によくなっても、また元に戻ってしまいます。そして、さらに疲労がたまっていくと、だんだんと痛みを感じるようになります。それまでは気持ちよかったマッサージで、痛みを感じるようになってきます。そして、しびれや冷え、力の入りにくさ、うごきにくさなどの症状もでてきます。また、不眠や食欲低下など自律神経症状うつ症状などもでてくることもあります。

どんな病気か

この病気が社会的に注目されるようになったのは、昭和三十年代の中ごろからでした。金融、損害保険などの職場に、コンピューターが導入され、そこで働くキーパンチャーと呼ばれる人達の間で、肩や腕のこりや痛み、手指の痛みやしびれを訴える人達が沢山出てきました。

 

昔はタイピストやスーパーのレジ打ちなど、キーをたたく仕事は、ほとんどが女性の仕事でした。 手や手の指の筋肉は小さく、酷使すると筋力はなかなか元に戻りませんでした。 そのため、男性よりも筋肉量の少ない女性の多くが、キーパンチャー病に悩まされていました。 キーパンチャー病は、頚肩腕症候群の一種です。 

 

こんな病気を当時は、腱鞘炎とか頸肩腕症候群とか呼んできましたが、そのうちに、この病気は、ボールペン複写、お札の勘定をする人、スーパーのレジをする人達にもみられるようになりました。さらには、保育所の保母さん、施設で働く人達、ベルトコンベアー作業の人々、学校給食の調理員の人達にも、同じような症状がみられるようになりました。さまざまな職場で、さまざまな仕事をしている人達の間に広まっていったのです。

 

今では男女ともにパソコンやタブレット、スマホなどを使う機会が多くなり、この症状に悩まされている人も多いのです。男性も頚肩腕症候群になることが多いのです。最近では、主に仕事が原因でおこっているこの病気のことを、頸肩腕障害と呼ぼうということになり、その予防対策や治療について、いろいろと研究が進められています。


症状

 では、この症状が起こる理由は、一体どういうものなのでしょうか?

  • 長時間同じ姿勢でデスクワークをする
  • パソコンなどで手や腕を繰り返し、同じような動作をする
  • 自分に合っていない机や椅子、部屋の照明、エアコンなどで身体が冷える
  • こりや痛みなどを感じながらも無理に仕事を続けるなど

こういったことが体に持続的な負荷を与え、頚肩腕症候群を起こす理由に挙げられています。 精神的なストレスを過剰に感じても発症、悪化するといわれています。

発症しやすい年代と性差

加齢により発症する割合が増えますが、労働によるものなどでは年齢に関わらず発症しやすくなっていると考えられています。また性差については一様に語ることは難しく、作業などによって多くの人におこる可能性があると言えます。

自覚症状

  • 腕や手が冷たくなる
  • ものが書きにくくなる
  • 脱力感
  • 腕が重く感じる
  • 運動をすると痛みが増す
  • 不眠
  • 食欲低下
  • じっとしていても痛みが現れる…など

腕、手周辺、首、肩、肩甲骨周辺などの症状

  • 肩、首筋のこり前腕のだるさ
  • 痛みや重さ
  • 首が回らない
  • 腕を一定以上あげると痛みを感じる、しびれる
  • 上肢関節の可動域が狭くなる…など

手足が冷たい・しびれるなどの末梢神経障害や筋力の低下、倦怠感といった自律神経失調症症状や、不眠・食欲低下などのうつ症状がおこる場合もあります。


原因

頸肩腕障害は、職業性のものであれば同じ動作の繰り返しや、首や肩周り、腕、指に負担の多い作業に従事しているという場合に発症しやすいと考えられています。

 

パソコンの長時間使用、同じような姿勢をとりつづけているといった人もこのような症状に悩まされることが多い傾向が見られます。

 

職業性にかぎらず、育児やスポーツなども原因となることがあります。また、加齢なども原因となる場合があります。

どんな条件がそろうと危ない?

朝から晩まで「集中」して、「正確」かつ「迅速」に、同じ作業を繰り返し(反復)、「長時間」仕事をする状態が毎日続くと体が疲れるのはもちろんですが、神経もすり減りストレスがたまってきます。 これらの慢性的な疲労が、過労性疾患につながっていきます。

 

「注意集中」「正確」「迅速」「反復」「長時間」の五つの条件が重なると、過労性疾患を起こします。  

  • 神経や血管への圧迫、筋肉への負荷により、首周辺・肩・背中・腕・手・手首などに痛みやこり、しびれが現れると考えられています。
  • パソコン入力など同じ作業を繰り返す
  • 肩から手の指までの体の特定の部位を動かし続ける
  • 長時間の作業による筋肉疲労や姿勢の悪さ
  • 長時間同じ姿勢でのデスクワーク
  • 心因性ストレス
  • いわゆる肩こりや首の凝りがありながら無理に作業、仕事を続ける

頸肩腕障害はどうしておこるのか

頸肩腕症候群の原因の大部分は、仕事による過労です。もちろん個人の体質や年令などの影響も全く否定するわけにはいきませんが、少なくとも主な原因は仕事によると考えていいでしょう。

 

①使いすぎの過労

たとえばキーパンチ作業だとか、電話送りの原稿を6枚も7枚もの複写で記録するとか、細かい作業をするための手指の筋肉に、ある程度以上の力をこめて、毎日毎日使いつづけると、これらの筋肉は疲労して来ます。それでもなお休めないで使うと、だんだん痛み、凝り、ついには腫れなどをおこし、手指が曲がらなくなったり、伸びなくなったり、痙攣をしたりなどの症状が出てきます。手指にあるような小さい筋肉ほど疲れやすく、疲れの治りが遅いものです。

 

②じっとしている疲れ

私たちの筋肉は、適当な運動を行なうことで、血液の流れをよくしその力を保つことができるようになっています。ところが反対に、全く使わないでじっとしていると、かえって血の流れが少なくなり、筋肉は萎縮してゆきます。また、筋肉は、静的緊張といって、ある状態をじっと続けていると、極端に血流が減って、必要な酸素や栄養素が充分に補えなくなり、疲労物質が溜まってきます。この状態も、頸肩腕症候群のおこる重大な理由だと考えられます。同じ姿勢をじっと保ち、目と腕というように、同じ筋肉ばかり使っているベルトコンベアーの人達などは、この要素が大きいでしょう。

 

③不自然な姿勢、伸びすぎ、縮みすぎ

ある一定時間、決められた姿勢を続けるためには、生理にかなった楽で自然な形というものがあります。しかし機械に合わせた姿勢や、狭いところで無理にしゃがみこんだり、高いところへ無理に伸び上がったりで、どうしても仕事の上から、快くない無理な姿勢や、動作をしなければならず、しかもこれを繰り返していると、症状が出やすくなるようです。無理や不自然でない姿勢でも、あんまり長い時間じっとしているのも、頸、肩、背、腰に大きな負担をかけます。

 

④全体としての運動不足

体のごく一部分の使いすぎが、頸肩腕症候群の“横綱”で、じっとしている疲れが“東の大関”とすれば、“西の大関”といってもいいものに、身体の全体的な運動不足をあげなければなりません。たしかに皆さんは、合理化、労働強化の中で、よく働いておられます。しかし良く考えてみて下さい。仕事での体の、とくに筋肉の使い方というのは、決まりきった部分を、決まりきった方法で使っているとは思いませんか。日常の仕事や生活の中で、こころよく汗をかくというようなことが、めっきりと減ってきているのが私たちの毎日です。とくに体の大きな筋肉(例えば下半身の筋肉)を大きく使うことが少なくなっています。そのために全身の血液の流れも滞りがちになり、いろいろと故障がおこります。これも頸肩腕症候群をおこしやすい原因になっていると思われます。ちょっときくとおかしいようですが頸肩腕症候群の成り立ちには、小さい筋肉の使い過ぎと、大きな筋肉の使わなさ過ぎが、大きな比重を占めているのです。

 

⑤精神や神経のつかれ

頸肩腕症候群の発病を考える上で、もう一つ忘れてはいけないことがあります。人間は毎日毎日の仕事や生活が楽しくて生き甲斐がある場合、少々耐えられるものです。しかし自分のやっている事の意味がわからず、仕方なしに仕事を嫌々やらされている場合だとか、職場に民主的な雰囲気がなくて、自由に物がいえなかったり、上司の顔色をたえず伺っていなければならなかったり、仕事そのものが工夫も創意もいらない単純なものであったり、こんな時には何でもない仕事がひどく苦痛に感じられるでしょう。また場合によっては、職場の同僚との折り合いが悪く、気まずい毎日であったり、家庭に心配事があって、仕事に集中できなかったり、ということもあるでしょう。このような精神的な疲れ、気づかれが、健康に影響ぼしますが、頸肩腕症候群の場合とくにこのことが無視できない要因となっていることが多いようです。また小さい文字や、意味のない記号を正確に読み取ったり、聞き取ったり、作業場が暑かったり、寒かったり、空気が汚れていたり、騒音でうるさかったり、こんなことでおこる神経の疲労も病気をおこしやすくします。ひどく精密さが求められる作業や、壊れやすいもの、危険物の取り扱い、いつもお客さんを相手に気を配らなければならない仕事も同様です。


予防法

日常生活の改善

頸肩腕症候群は、急性に病気が起こって、比較的短期間に治ってゆくこともありますが、再発しやすかったりして、やはり慢性病として気長な療養が必要な病気と考えるべきでしょう。長い経過をたどる病気では病院の治療も大切ですが、自宅での治療や、患者さん自身のする治療、それを助ける日常生活の過ごし方が、病気の経過に大きな影響を与えます。病気を治すは自分自身だという自覚にもとづく療養生活を正しく設計してゆくことが大切です。

 

①規則正しい生活を

幸いに仕事を休んで療養に専念できる人、仕事を部分的に休む人、仕事を続けながら治療をしている人等どんな患者にも共通していえることはまず適切で充分な休養が基本になるということです。同時にこれと並んで大切なこととして、規則正しい毎日を送ることを強調したいと思います。とくに仕事を休んでいると、どうしても一日がだらだらと決まりがなくなりやすいようです。できれば日課表なども作って、毎日毎日をリズミカルに送ることが必要です。療養生活の中にも、適度な緊張と、適当な弛緩があることが望ましいのです。消極的な受け身の生活でなく、積極的な療養生活を送ろうということです。時間があるから、休養が必要だからと、たとえば、1日のほとんどの時間、寝そべってテレビを見ているというようなすごし方が良くないのはもちろんです。

 

②まわりの人の理解、家族の協力

休養している場合も、仕事を続けながら養生している場合も、何よりも必要なのは、家族の方達、職場の人達の、病気と療養の仕方への理解です。病気といえば安静という一般的常識とは少し違った療養、適当な運動や、時には体操もスポーツも必要といった治療をしていると大した病人ではないように誤解されやすいと思います。こういう事についても良く話しをして皆さんの周囲の人達に理解してもらい援助してもらえるよう努力しましょう。

 

③食生活

頸肩腕症候群の人達にも運動不足によると思われる太り過ぎが目立つようです。太り過ぎますと、筋肉の血液の流れもよくなくなり、筋肉の力もおとろえ、心臓や肺に余分の負担をかけます。これを予防するためには、運動不足にならないようにすることと同時に、食物の注意も必要です。太り過ぎの主な原因は、糖質(糖分)の取り過ぎだといってよいでしょう。米飯や、うどん、そば、パンなどは、その大部分が糖質類、カロリーの源となります。甘いもの、ジュースなどの飲料水、コーヒーや、酒類も、あんがいに糖質をたくさん含んでいます。女性の方の好きなおやつ、おかき、おせんべいなども、糖質なのです。少し太り気味の方は、気をつけなければなりません。やせ型、肥満型、いずれの人達も筋肉の状態を良くするため、蛋白質(肉、魚、たまご等)をたくさん食べることは、女性に多い貧血傾向を予防する上でも、良いことです。このようなことを心がけながら、バランスのとれた、偏りのない食事をとりましょう。

 

④睡眠

充分な快い眠りが疲労の回復にとって大切である事は、いうまでもありません。一般に大人の睡眠時間は7~ 8時間ぐらいです。若い人ほど、調子の悪い時ほど、普段より余分に眠りましょう。眠りにくい時は、睡眠剤や安定剤を適当に使用することも、必要な場合がありますが、快い眠りを誘うには、適度な運動が有効なことも多いようです。手足が冷えて眠りにくい時の暖房具、暑すぎる熱帯夜の冷房、上手く使って下さい。暑さ、寒さの刺激も、適度であればかえって体を強くしますが、体の調子を崩している時は、文明の利器に助けてもらわねばならないこともありましょう。お布団のあまり厚くてふかふかなのは、背骨の形をゆがめたり、負担をかけたりしてよくないといわれています。枕の硬さや高さなど、自分の体にあった気持ちよく眠れるものならば、それほど神経質になることはないのですが、硬くて高すぎるのは、避けた方がよいでしょう。

 

⑤家での仕事

洗濯、炊事、掃除、それに人によっては、育児など、家でしなければならない仕事がいっぱい、自然な無理のない姿勢で、体の一部分に負担をかけすぎないというのが原則です。たとえば、ハンドバックのようなものでも手に持つより、肩に、片方の肩にかけるより、両方の肩にかける方が良いわけです。伸びすぎ、縮すぎ、長時間の同一姿勢が良くないことはすでに述べました。きき腕が痛む時、それをかばって反対側をよく使いますが、きき腕でない方は、わずかな無理でも、きき腕よりも痛みやすいことも知って欲しいものです。

 

⑥着るもの、履くもの

なるべくゆったりとした、体の自由な動きを妨げないようなものを着たり、履いたりすること。ジーパンのように、ピッチリと体をしめつけるようなものや高いヒールの靴なども考えものです。流行もありますが、体のために、多少は辛抱しましょう。

 

⑦冷房、暖房

暑さや寒さ、お天気の変化に、頸肩腕症候群の患者さんは、少し敏感です。健康な人ではあまり考える必要もない、まわりの変化にもある程度の注意がいります。ことに夏の冷房(扇風機も含めて)で、効きすぎて体が冷えたり、片方だけ、あるいは一部分だけ冷えるのは、禁物、直接あたるのは避けた方がよいのです。暖房の場合、どうしても足元がひえて、上半身のみが暖かいことが多いのですが、これも工夫が必要です。

対処法

どんな病気でも、その起こる原因をたしかめ、原因を無くしてゆくのが、病気の治療の大原則です。原因を取り除きさえすれば、たいていの病気はその体に備わっている自然治ゆ力で治ってゆくものです。頸肩腕症候群の治療も例外ではありません。

 

①まず原因をなくす事

仕事の負担が大きくて起こった病気ですから、まずこれを軽くすることが第一であることは、言うまでもありません。でも仕事が原因であるからといって、仕事をなくしてしまうわけにはゆきませんから、そして負担を軽くすることも、必ずしもできるとは限りませんから、とにかく先ず仕事を休むことが、治療の第一歩だといえます。仕事から離れて、のんびりと体を休めるわけです。これだけで多くの人はかなり楽になると思われます。いろんな事情があって、どうしても仕事が休めない場合は、仕方がありませんから、せめて半日勤務で、午後は休むとか、それもだめなら、週三回を通院日として、三日だけでも半日仕事からはなれることができないか工夫をしてみましょう。こうして療養生活に入ったら、先に書いたようなことをもとに、自分の仕事を点検してみて、何が主な原因で病気になったのかを、よく考え、職場の同僚や、労働組合の役員の人達ともよく話し合って、どうしたら二度と病気にならずにすむか、自分と同じような病人を、仲間の中から出さないためには、どうしたら良いか、充分理解を深めなければなりません。 このことは、病気回復後の職場復帰の際に大切なことです。

 

②とにかく心と体を休めよう

頸肩腕症候群だといわれたらとにかく充分な休養をとること、これが第二のやるべきことです。全身の疲れと心の疲れをまずとることから治療が始まります。充分な睡眠と規則正しい生活、はじめは臥床安静を必要とする人も中にはありますが、多くの人は、少なくとも八時間の睡眠、バランスのとれた食事をきちんととることを基本にして、日課表をつくって規則的に正しい生活を送ることが、大事なことになります。どのような病気の人にも散歩程度のことは許されますので、疲れをとることが大切だからといって、運動不足にならないように心がけて下さい。あんまり痛くて、心身の安静が妨げられたり、安眠できないような時には痛みを我慢することが、ますます病気を悪くすることにつながりますので病状にあった薬なり、注射なりで、医師に痛みを止めてもらうべきです。

 

③薬や注射などの治療を要する場合

頸肩腕症候群では、原則的には、薬や注射を用いなくても、充分回復することができます。しかし痛みや腫れがあんまり強いような(急性に病気が出た場合など)時には、一時的にでも痛みを止め、腫れをとる薬を使うことで、病気の進行を止め、苦痛のためおこる体の反応をおさえ、早く症状を落ちつかせる意味で時々このような方法をとることもあります。また頸肩腕症候群によって引き起こされた合併症、例えばレイノー現象だとか不眠などの神経症状を伴う場合も、薬を使わなければならなくなることもあります。

 

④筋肉の疲れをとる

何といっても頸肩腕症候群の治療の主流は、理学療法、物理療法になります。筋肉の疲れが頸肩腕症候群の主な病態だとすると、それを取るためにいろんな工夫がされています。先ずホットパック、これはその部分をあたため、血液の流れをよくする効果があり、コリや痛み、しびれを軽くします。超短波(マイクロ)赤外線などの電気治療、入浴、気泡浴などもほとんど同じ目的で用いられます。ついでマッサージ、これも筋肉をもんだり、さすったりすることで、筋肉の緊張をほぐし、適当な刺激をあたえて、血流をよくします。頸椎けん引は頸を適当に引っ張ることで、頸、肩への痛みを軽くし、筋肉の緊張をやわらげるものです。この三者が理学療法の主流のようですが、その他にパラフィン浴も最近では用いられており、これも温熱療法の一つです。このような治療は病院で主にやりますが家庭では、同じような意味で入浴が比較的手軽に行なえる方法です。こつは熱すぎないどちらかといえば、ややぬるい目のお湯で、その浮力を利用して、軽い屈伸の運動をすれば、なおよいでしょう。

 

⑤運動でつかれをとる

運動で疲れをとるといえば、ちょっと変に聞こえるかもしれませんが、この病気の成り立ちのところをもう一度思い出してください。筋肉は適当に運動することにより、血液の流れが良くなること、大きい筋肉の屈伸で、全身の循環状態も改善されることが書いてあったでしょう。血液の流れを良くして疲れを取ろうというわけです。まずブラブラ散歩、これは頸肩腕症候群のどのような症状の人でもほとんど皆さんがやっていただける運動です。ついでに歩く速度を速めてみましょう。少しばかり息が早くなり、心臓の鼓動がドキドキと自覚される程度にして一回十分の単位で、一日二回位からはじめだんだん時間を伸ばしてみます。とにかく毎日やること、これが一番肝心です。一回にどの位やったらよいか目安は、運動のあと気分のよい疲れを感じ、その疲れがいつまでも、とくに翌日まで持続しない程度を目標にしてみたらと思います。頸肩腕症候群の特別な体操としていくつもいろんなところで考察されていますが、腹筋運動がいちばんポピュラーなようです。たとえば、就寝の前など、仰向けに寝そべって、両下肢をそろえて、上にあげる運動をくりかえしたり、同じように寝そべって、今度は、足首を家族の人におさえてもらって上体をおこす運動を繰り返したりするのですが、このような運動が頸肩腕症候群の治療としても、また予防体操としても有効だといわれています。

 

⑥スポーツやリクレーションも

前記の体操の他にも、疲労回復の手段として、スポーツ、山登り、ハイキングリクレーションがあります。体操や運動療法は主に個人でやるもので、よほど好きな人か、よほど意志のかたい人でないと、どうしても長続きしにくいようです。それに比べてスポーツは、それ自身に競技、記録という面白さが加わり、リクレーション効果もみられる利点と、集団でやることが多いので、お互いの連帯や仲間意識を育てて、場合によっては患者さん同志の励ましあいになるので、大変良いことです。その反面、毎日続けることがむずかしいとか、場所や道具がいるとの欠点もあり、時には、熱中しすぎて疲れを増したなどの失敗もよくおこります。スポーツの中で頸肩腕症候群に最もよいとされているのは、ほとんど全身の筋肉をくまなく使う水泳です。水の中では体が軽くて動きやすくなるということもあって、頸肩腕症候群の治療によく用いられます。

 

⑦痛みをガマンしてはいけない

運動やスポーツを治療としてとり入れる場合、快い疲れ、長くあとに残らない疲れを目標にといいました。よく気をつけてほしいと思います。同時に運動やスポーツを治療としてやる際に、もう一つ気をつけてほしいのは、痛みが強くなるような動作はやってはならない、ということです。単なる辛い痛みやこりの場合には、少々痛くてもガマンして運動するとなおることが多いのですが、頸肩腕症候群という病気の患者さんは、絶対に避けることが必要で、でないとそのために病状を悪くすることがあります。


治療法

治療方法と治療期間

痛みや炎症がある場合は、無理せずに症状が治まるのを待ちます。また痛みが出る動作を避ける必要があるので、負荷原因を避ける、作業などに取り組む時間を減らすといったことも必要になります。身体的苦痛を和らげるためには、痛みや炎症が強いようならば消炎鎮痛剤の投与といった対症療法をおこないます。

 

比較的軽症の場合は、運動療法、理学療法を並行しておこない寛解することもあります。状態によっては頸椎の牽引などで頸や肩の痛みの緩和が可能な場合もあります。ただし検査の結果、椎間板ヘルニアなどで太い神経に影響が出ている場合は、手術が必要になります。

 

そのため、治療期間は状況により違いがあります。強い痛みなどの症状が治まった後も生活改善や運動療法などを継続して長期間かけての治療が必要です。

病院での治療法

主な診療科目は、整形外科です。診断は主に、問診、触診、画像検査(レントゲン検査、MRI検査など)の結果をもとにおこないます。症状が出た場合は、「疲労だから仕方がない」と無理をせず、速やかに病院を受診するようにしましょう。無理をすると痛みが増したり、症状が悪化したりする場合があります。

 

問診では、いつ頃から痛むのか、どんな行動をした時に症状が出るのか、普段の生活の様子などの詳しい説明が必要です。「頸肩腕障害」と同様の症状が現れる、別の頸椎や椎間板に由来する病気との鑑別も必要になります。

 

通常、消炎鎮痛剤筋弛緩剤を使います。理学療法(温熱療法、電気刺激療法、関節可動域改善訓練、肩のストレッチング、筋力強化訓練、肩の体操)も有効です。症状が強い場合、痛みの原因になっている神経の働きを抑える局所注射療法(肩甲上神経ブロック・トリガーポイントなど)や点滴治療を行います。

病院での治療は主に次の三つです。

  • 薬物治療(痛み止めなど)
  • 神経ブロック療法(痛みの原因になっている神経の働きを抑える)
  • 理学療法

治療を始めても、すぐに痛みが改善されるとはかぎりません。 ご自身にあった治療法を見つけて、症状を改善するようにしていきましょう。 頚肩腕症候群は、痛みの原因を取り除くことが大切です。

 

仕事やふだんの生活で、疲労を溜めないようにしましょう。 そして、自分の心と身体を休めるようにしましょう。 無理をすると症状を悪化させるので、パソコンに向かう時間をほどほどにする、1時間に10分は休憩するなど、体に負荷をかけ過ぎないようにしましょう。

治療の展望と予後

痛みの原因となる同じような動作を繰り返せば再発する場合もあるので、主治医の指示をよく聞き、日常生活を送ることが重要です。頸椎神経症に関わるような手術を受けた場合は、手術の翌日より、頸椎カラーを付けて生活することになります。手術後2~3週間で退院できる場合が多いです。


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