誤嚥性肺炎
唾液や食べ物を飲み込むときに、誤って気管に入ってしまうことを誤嚥(ごえん)と言います。通常は気管に食べ物などが入ってしまった場合、むせることで気管から異物を排出する反射機能が働きます。誤嚥性肺炎とは、この機能が鈍ることで排出できなかった異物が肺に入ったままになってしまい、肺の中で炎症が起こることを言います。
日本人の死亡原因、三大疾病である悪性新生物(ガン)、心疾患、脳血管疾患に続き4位に肺炎があります。 肺炎を原因とした65歳以上の死亡率が96%と非常に高く、90歳以上では死亡原因第2位に順位があがります。
加齢によって噛む力が弱くなったり、舌を動かす筋肉が衰えたりすることで、食べ物を飲み込む嚥下機能が低下する高齢者に多く起こり、70歳以上の肺炎の約80%が誤嚥性肺炎。胃に直接チューブを入れて栄養を送り込む経管栄養を行っている人でも起こります。
高齢者の肺炎は、誤嚥【ごえん】(口の中の唾液、たん、食べ物が気管の中に入り込むこと)によって、口の中の細菌が肺まで到達し炎症を引き起こすことが起因していることが知られてきました。脳血管障害(脳梗塞、脳内出血)や、パーキンソン症候群、アルツハイマー型痴呆症(認知症)の方は、嚥下障害(飲み込みの障害で喉の神経や筋肉が正常にはたらかない)があり、肺炎を起こしやすいのです。
一度食べた食事が、胃から食道に逆流して誤嚥して起きることもあります。便秘や大腸ガンなどで腸の通過が悪くなって嘔吐したときに吐瀉物【としゃぶつ】(体外に吐き出された胃の内容物)を気管に吸い込んで起きることもあります。
経鼻経管栄養(鼻から胃に管を入れて栄養剤を入れる)や、胃瘻【いろう】 (おなかから胃に管を入れ、栄養剤をいれる)の場合も発症することがあります。胃瘻のほうが、経鼻経管栄養より肺炎の発症が少ないようですが、まったく発症しないわけでもありません。
高齢者の肺炎は、夜つくられると言われるそうです。健康な老人であれは夜ぐっすり寝ていても飲み込む動作はあまり低下しないのですが 、脳血管障害のある方や向精神薬(鎮静剤など)を服用している方は、熟睡しているときに不顕性誤嚥【ふけんせいごえん】(胃液が肺の中に入る)を起こすことがあります。
原因
飲み物や食べ物を飲み込む動作を嚥下【えんげ】と言い、食道を通って胃に運ばれます。食道と気管は隣り合わせで、気管の入り口(喉頭【こうとう】)が大きく開いており、このままでは飲み物・食べ物が気管に入ってしまいます。それを防ぐためにフタの役目をもつ喉頭蓋【こうとうがい】という軟骨からなる部分が、嚥下の動作により気管の入り口をふさぎます。
健常者でも誤嚥はしますが、吐き出そうとする動作(咳やむせ)により気管から出そうとします。 誤嚥により口の中の細菌が気管や肺に入り込んでも、体力や抵抗力・免疫力により細菌を駆除できるので、生活していく上でさほど影響はありません。
高齢者、認知症の人、神経疾患などで寝たきりの人は口腔内の清潔が十分に保たれていないこともあり、口腔内で肺炎の原因となる細菌がより多く増殖しています。また、物を飲み込む嚥下機能が衰えることで、口から食道に入るべきものが気管に入ってしまう誤嚥を起こしやすくなります。
誤嚥によって食べ物や唾液、胃液などと一緒に細菌が気道に入ることで肺の中で細菌が繁殖して炎症を起こし、誤嚥性肺炎が発症します。また、食べ物などの誤嚥の他に、口の中や喉の粘膜にすみついた細菌を含んだ唾液の誤嚥や、寝ている間に胃と食道の逆流によって胃酸を含んだ胃の内容物を誤嚥して起こることもあります。
高齢や脳の病気などの影響により嚥下機能の低下がある場合、うまく飲み込めず、喉頭蓋の動きが低下し、誤嚥した際の咳やむせといった動作も鈍くなり、気管への誤嚥を招いてしまいます。 誤嚥によって口の中の細菌が気管や肺に入ってしまい、体力・抵抗力・免疫力の低下などにより細菌を駆除することができず、細菌性の肺炎にかかる危険度が増します。
一度誤嚥性肺炎を起こすと気道の粘膜が傷つき異物に対する反射機能が鈍くなり、誤嚥しても咳が起こりにくくなるため誤嚥したものを排出できなくなり、肺炎のリスクが高くなるという悪循環が起こります。
症状
発熱、激しい咳、膿のような痰が特徴的な症状ですが、高齢者の場合はこのような典型的症状が見られないことも多く、気づいたときには肺炎が進行していたというケースもあります。
何となく元気がない、ボーっとしている、食事に時間がかかる、飲み込む前後にむせたり咳き込んだりする、口の中に食べ物をためてなかなか飲み込まないなどといった様子が見られたら、誤嚥性肺炎の可能性があります。
予防
再発や悪化を防ぐためには、口の中のケア、嚥下の方法を含む食事の仕方など日常生活でも対策が必要です。歯磨きに加えて舌も磨く、義歯の手入れをきちんとするなど口腔内を清潔に保ち、口の中の細菌を減らすようにします。
日常の歯磨きや入れ歯の清掃・手入れなどを行っていない場合や不十分な場合、口の中で細菌が繁殖を続けています。口の中をきれいにすることで細菌を減らし、誤嚥性肺炎のリスクを低減させることができます。
食事の際は背中を丸めた姿勢、逆に背もたれにもたれて胸を張った姿勢で食べると誤嚥を起こしやすくなるので、背筋を伸ばして飲み込むようにします。
高齢者は飲み込む力が低下しているため、少しずつゆっくりと食べるようにし、調理する側もやわらかく調理し、とろみをつけるなどの工夫をして誤嚥を予防します。
また、食後すぐ横になると胃や食道の食べ物が逆流して誤嚥を起こすこともあるので、食後2時間くらいは座って過ごすようにすると良いです。
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